「解体工事でアスベストが見つかったらどうしよう…」と不安に感じていませんか?
アスベストは適切に調査・除去しなければ、健康被害や近隣トラブルにつながる恐れがあります。
本記事では、解体工事で注意すべきアスベストの基礎知識から、調査・除去の流れ、費用相場、補助金制度、安全な業者選びのポイントまで、重要な情報をわかりやすく解説します。
不安を減らし、安心して工事を進めるための第一歩にしてください。
Contents
アスベストとは
アスベスト(石綿)は天然の鉱物繊維で、蛇紋石や角閃石が繊維状に変化した無機繊維状鉱物の総称です。
主な種類として、白石綿(クリソタイル)、茶石綿(アモサイト)、青石綿(クロシドライト)の3種類が日本で使用されてきました。
この物質は熱や摩擦、酸やアルカリに強く、耐火性・断熱性・防音性・絶縁性に優れているため、建築材料として広く活用されました。
問題となるのは繊維が極めて細いため、空気中に浮遊しやすく、人が吸入してしまう危険性があることです。
現在は健康被害を引き起こすことが判明し、日本では製造や使用が全面的に禁止されています。
解体工事でアスベスト調査が義務化された背景
解体工事のアスベスト調査義務化は、法改正による規制強化、深刻な健康被害、そして近隣住民の安全確保という3つの要因によって実現されました。
2022年4月の法改正による事前調査報告義務
2022年4月1日から、すべての建築物と特定の工作物の一定規模以上の解体・改修工事において、アスベストの事前調査結果を行政に報告することが義務化されました。
アスベストレベルに関わらず、どのような結果でも報告が必要となっています。
これまで事前調査の実施は義務付けられていたものの、必要な措置が実施されていない事例が散見されていました。
調査結果は作業完了後でも検証できるよう正確に作成し、3年間保存することが元請け業者に義務付けられています。
この法改正により、適切な調査実施と記録管理が確実に行われる体制が整いました。
アスベスト健康被害の深刻化
アスベスト繊維は肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫の原因となり、肺がんを起こす可能性があることがWHO報告で知られています。
建築物を解体する際、アスベスト繊維が周辺に大量飛散することがあり、一定期間吸い続けた場合に10年以上の長い時を経て様々な病気を起こすことがわかってきました。
アスベストによる健康被害は中皮腫に代表されるように、石綿を吸い込んでから30〜50年という長い潜伏期間を経て発症します。
特に中皮腫は、そのほとんどがアスベストの吸引によると考えられています。
このような深刻な健康被害の実態が明らかになり、調査義務化の必要性が高まりました。
近隣住民への配慮と安全確保
解体工事におけるアスベスト飛散は、作業従事者だけでなく近隣住民にも健康リスクをもたらします。アスベスト繊維は非常に細いため、加工・処理の仕方によっては大量に飛散してしまいます。
特に住宅密集地での解体工事では、適切な調査と対策を講じなければ、周辺住民が知らないうちにアスベストを吸入する危険性があります。
法改正により事前調査が義務化されたことで、工事前にアスベストの有無を確実に把握し、必要に応じて適切な除去や飛散防止措置を講じることが可能になりました。
これにより、近隣住民の健康と安全を守る体制が強化されています。
解体工事におけるアスベスト事前調査の流れ
事前調査では、工事の対象範囲の建材を網羅的に調査し、石綿含有の有無を確認します。
調査は書面調査から始まり、現地目視調査、必要に応じて分析調査へと段階的に進められ、最終的に調査結果の報告と記録保存を行います。
建築図書による書面調査
設計図書等により新築工事に着手した日、建築材料を確認します。
建築確認申請書、設計図書、施工記録などの文書を精査し、使用建材とその施工時期を調べます。
アスベスト使用の有無は、建築物の竣工年度、および設計図書に記載された吹付け材、建材の商品名から調査、判断します。
設計図書の借用ができなければ、時間と費用が余計にかかります。
そのため建築確認申請書や消防署への申請書類がないか事前に確認することが重要です。
石綿(アスベスト)含有建材データベース等を使用した調査を行います。
現地での目視調査
書面調査の結果を基に、実際の建物で建材の状況を目視で確認する作業です。
調査モレがないように番号で管理します。
そのために平面図を用いて調査対象の全ての部屋や空間ごとに番号付けをします。
天井裏、壁の内部、配管周りなど、アスベスト含有建材が使用される可能性の高い箇所を重点的にチェックします。
建材の種類、色、質感、施工方法などを詳細に観察し、アスベスト含有の可能性を判断します。
書面調査では確認できなかった改修・増築履歴についても、現地でヒアリングを行い総合的に評価します。
分析調査による確定診断
目視調査でアスベスト含有の疑いがある建材や、判断が困難な建材については分析調査を実施します。
定性分析は、アスベストの含有率が0.1重量%超えているかの確認を行う分析方法です。
建材サンプルを採取し、偏光顕微鏡やX線回折装置を用いて石綿繊維の有無を科学的に確定します。
JIS A 1481-1またはJIS A 1481-2の規格に基づいて分析が行われ、含有率0.1重量%を超える場合はアスベスト含有建材と判定されます。
分析結果により適切な除去方法や作業レベルが決定されます。
調査結果の報告と記録保存
大規模・小規模に関わらず工事をする際には「石綿有無の事前調査」が必須となっています。
一定規模以上の工事では都道府県知事等への報告が義務付けられています。
調査結果は詳細な報告書として作成し、建材の種類、場所、含有の有無、写真などを記録します。
令和5年10月1日から、事前調査を行う者は建築物石綿含有建材調査者の資格が必須となりました。
作成された調査記録は工事完了後も3年間保存することが義務付けられており、行政からの問い合わせや検査に備える必要があります。
アスベストのレベル別危険性
アスベストは飛散性の高さに応じてレベル1から3に分類され、レベル1が最も危険で、レベル3が比較的リスクの低い建材となります。
それぞれのレベルで除去方法や作業基準が大きく異なります。
レベル1(吹付けアスベスト)
レベル1は最も飛散性が高く、解体時に極めて危険なアスベスト建材です。
アスベストとセメントを混ぜ合わせた「アスベスト吹き付け材」や、ロックウールの中にアスベストを混ぜ入れた「石綿含有ロックウール吹き付け材」などが該当します。
綿状のアスベストは解体時にブワッと繊維が飛び散ってしまうため大変危険な状況となります。
主にエレベーター周りや耐火建築物の梁・柱、立体駐車場の天井、ビルの機械室などに使用されており、一般的な木造住宅にはほとんど使用されていません。
除去作業では厳重な飛散防止策が必要となります。
レベル2(保温材・断熱材)
レベル2は発じん性が高いアスベスト含有建材で、保温材や耐火被覆材などが該当します。
密度が低く、崩れると飛散する恐れがあるため注意が必要です。
工事前の届出が必要で、具体的には工事開始の14日前までに所轄の労働基準監督署長に計画届を提出することが求められます。
作業現場では周囲への注意喚起や飛散防止策が施され、作業員は適切な保護具を着用してばく露を防ぎます。
レベル1に比べると保護具はやや簡易的ですが、それでも十分な保護機能を持つものが選ばれ、作業場の清掃の徹底や前室の設置も飛散防止のために必須とされます。
レベル3(成形板)
レベル3は発じん性が比較的低いアスベスト含有建材で、硬い板状に成形されたものが多く、割れにくいため飛散リスクが低いという特徴があります。
一般的な木造住宅でも使用されている可能性があり、屋根材や外壁材、天井・壁・床などの内装材、ビニル床タイルなどが該当します。
アスベストの含有量が高い場合もあるので、むやみに触れると危険です。
令和3年の法令改正によりレベル3の建材も特定建築材料とされ、レベル1、2同様の義務や作業基準が適用されるようになりました。
簡易的な保護具で対応可能ですが、慎重な作業が求められます。
アスベスト除去の費用相場
アスベスト除去費用は、危険性の高いレベル1から比較的安全なレベル3まで大きく異なります。
除去作業の複雑さや必要な安全対策によって費用が決まるため、事前に相場を把握しておくことが重要です。
レベル1除去工事の費用目安
レベル1のアスベスト除去費用は、1㎡あたり約15,000円から85,000円程度が相場となります。
吹付けアスベストは最も危険性が高く、完全密閉での作業が必要なため高額になります。
除去には専門的な機材と高度な技術が求められ、作業員の安全確保のための設備投資も必要です。
30坪程度の住宅で天井全体にレベル1アスベストがある場合、200万円から500万円程度の費用がかかることもあります。
工期も長期間に及ぶため、総合的な負担が最も大きい除去工事となります。
レベル2除去工事の費用目安
レベル2のアスベスト除去費用は、1㎡あたり約10,000円から60,000円程度が相場です。
保温材や断熱材などが対象となり、レベル1ほどではないものの慎重な作業が必要です。
配管回りの保温材除去では複雑な形状への対応が求められ、作業時間が長くなる傾向があります。
一般的な住宅の配管保温材除去であれば50万円から150万円程度、工場やビルの大規模な断熱材除去では数百万円に及ぶケースもあります。
レベル1と同様の厳格な管理が求められるため、相応の費用準備が必要です。
レベル3除去工事の費用目安
レベル3のアスベスト除去費用は、1㎡あたり約3,000円程度が相場で、30坪程度の住宅では屋根が10万円から20万円、外壁が20万円から30万円程度となります。
成形板などは飛散リスクが比較的低く、手作業での慎重な解体が中心となります。
ただし、使用されている建材の種類が多い場合や、建物の構造が複雑な場合は費用が上昇します。
スレート屋根や外壁サイディングなど、一般住宅でよく見られる建材が対象となるため、最も身近なアスベスト除去工事といえます。
調査費用と追加工事費
アスベスト事前調査費用は、一般的な木造住宅(200㎡まで)で約70,000円程度が目安となります。
分析調査が必要な場合は、1検体あたり約18,000円から19,800円の費用が追加でかかります。
書面調査と現地調査で完了する場合もありますが、疑わしい建材が発見された際は分析調査が必要です。
また、解体工事中に予期しないアスベスト建材が発見された場合、工事の一時停止と追加調査により、当初予算から大幅に費用が増加する可能性があります。
このリスクを避けるため、事前調査は徹底的に行うことが重要です。
解体工事アスベスト対策で利用できる補助金制度
アスベスト対策には高額な費用がかかるため、補助金制度の活用が重要です。
ここでは、国や自治体の補助内容と申請時の注意点を詳しく解説します。
国の補助金制度
国は、アスベストの除去や調査にかかる費用を一部補助する制度を設けています。
対象となるのは、吹付けアスベストや劣化が進んだ高リスク建材などです。
補助率は工事費の2分の1程度が目安で、上限額は制度により異なります。
たとえば、環境省の事業では地方公共団体を通じて補助が行われることが多く、申請には事前調査や工事計画の提出が必要です。
活用には、実施時期や補助要件をしっかり確認することが欠かせません。
都道府県別の助成事業
都道府県や市区町村では、独自にアスベスト対策の補助制度を運用しています。
東京都では最大100万円、大阪府では最大50万円など、支援内容は地域ごとに異なります。
中には調査費用も含めて支援する自治体もあり、制度によって対象となる建物の種別や建築年も違います。
注意すべき点は、申請の受付期間や予算の上限です。
募集枠が埋まり次第終了する場合もあるため、解体予定がある場合は早めの情報収集が重要です。
補助金申請の手続きと注意点
補助金の申請には、工事前の手続きと正確な書類の準備が求められます。
一般的には、事前調査の結果や除去対象の範囲、施工計画などを提出し、自治体から承認を得る必要があります。
手続きを後回しにすると、工事着手後には申請できないケースが多くなります。
また、業者選定も重要なポイントで、アスベスト除去の資格や許可を持つ業者でないと補助金の対象外になることがあります。
事前準備を丁寧に進めましょう。
アスベスト含有建物の解体業者選びのポイント
アスベストを含む建物の解体は高い専門性が求められます。
安全かつ確実に処理してもらうためには、業者選びの段階でいくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
アスベスト除去の許可と資格確認
アスベストの除去には、法律で定められた資格と許可が必要です。
たとえば、「特別管理産業廃棄物管理責任者」や「石綿作業主任者」の資格がなければ、安全に除去作業はできません。
また、建設業許可の中でも「解体工事業」の区分が必要で、都道府県知事または国交大臣からの認可を受けているか確認しましょう。
業者のホームページや見積書に記載されている資格欄をチェックすることで、信頼性の判断材料になります。
実績と専門性の評価方法
業者の信頼性を見極めるには、過去の工事実績や専門性を確認することが重要です。
具体的には、これまでに行ったアスベスト除去の件数や建物の種類、工法などを質問してみるとよいでしょう。
また、公共事業や大手企業の案件を請け負っている業者は、一定の基準を満たしていると考えられます。
対応の丁寧さや説明の分かりやすさも、専門性を見極める手がかりになります。
見積もり比較時のチェック項目
見積もりを取る際は、金額だけでなく内訳の明細や作業工程も確認が必要です。
アスベスト除去費用が明示されていなかったり、調査費が含まれていない場合は要注意です。
また、使用する養生資材や飛散防止措置に関する記載も重要な判断材料です。
複数社から見積もりを取り、費用の妥当性と内容の透明性を比べることで、後々のトラブルを防ぐことができます。
解体工事でアスベストが心配な方への対処法
アスベストの飛散や健康被害が心配な方に向けて、具体的な予防策や安全な距離の確保、安心できる情報の集め方について詳しく解説します。
子供や家族への健康影響と予防策
アスベストは微細な繊維として空気中に舞うため、吸い込むと肺に蓄積され、長期的に健康被害を引き起こす恐れがあります。
特に子供は呼吸量が多いため影響を受けやすく、注意が必要です。
工事前には室内の換気口をふさぎ、窓を閉めておくことが基本です。
また、長時間在宅する日を避け、工事期間中は親族宅などへ一時的に避難するのも有効です。
家庭内でも予防策を講じることで、家族の健康リスクを最小限に抑えられます。
飛散距離と安全な離隔距離
アスベストが飛散した場合、風に乗って周囲に広がる可能性があります。
一般的に、無風時でも10〜20メートル程度は拡散するおそれがあるため、近隣住民や通行人への配慮が求められます。
業者がしっかりと飛散防止措置を講じることが前提ですが、自宅や隣接地においては、洗濯物を外に干さない、窓を閉めておくなどの対応も大切です。
適切な安全距離を保ちつつ生活することで、不要な曝露リスクを避けることができます。
不安軽減のための情報収集方法
不安を和らげるためには、正確な情報を得ることが何よりも重要です。
まずは自治体や厚生労働省が発信している公式情報を確認しましょう。
工事業者にも、具体的な作業内容や飛散対策について積極的に質問すると安心材料になります。
必要であれば第三者機関による調査やアドバイスを受けるのもひとつの方法です。
信頼できる情報をもとに行動することで、漠然とした不安を具体的な対策に変えることができます。
まとめ|解体工事アスベスト対策で安全な工事を実現しよう
アスベストは健康被害を引き起こす危険性から、現在では使用が全面禁止されています。
法改正により、解体工事では事前調査と報告が義務化され、適切な処理が求められます。
アスベストの危険度は建材の種類ごとに3段階で分類され、除去費用や作業内容も異なります。
補助金制度を活用すれば費用負担を軽減できますが、申請には手続きや条件の確認が必要です。
安全な工事には、資格や実績のある業者選びも重要です。